研究活動の紹介

現在取り組んでいる研究について

 付着生物(フジツボ類、ホヤ類などの固着動物と海藻・海草類)の分布と海底地形形状との関連について調べています。写真測量(フォトグラメトリ)という写真から3次元形状を復元する手法を用いて、ダイビングをして岩礁地形の3次元モデルを作ります(Fig. 1, 2)。この3次元モデル上に、どこにどのような付着生物種がいたかを記録し(Fig. 3)、海底地形の特徴(地形量)との関連を解析することで、各種がどのような地形条件を好むかを調べています。この研究は、藻場造成に適した構造物形状の提案や地形改変による生物相の変化を予測することにも応用できると期待しています。

▲Fig.1 SCUBA潜水による地形撮影作業の様子
▲Fig. 2 岩礁の3次元モデルの一例
▲Fig. 3 3Dモデル上にサンカクフジツボの出現を記録した図。フィールドで撮影した写真と3Dモデルを交互に見て、場所を決めていきます。研究の中で、最も疲れる作業です。

研究フィールド

 岩手県大槌町にある東京大学大気海洋研究所の国際沿岸海洋研究センター(現、大槌沿岸センター)に在籍していた大学院生時代(2018年4月~2022年3月)には、センター目の前の大槌湾をメインフィールドとして毎月潜水調査をしていました。冬は親潮が入ると3度まで冷え込む本州で最も寒い海の一つだったので、ドライスーツが必須の環境でした(Fig. 4)。
 2022年4月からは一転、九州大学浅海底フロンティア研究センターに移りました。北部九州の少し暖かい海で、岩礁域のフィールドを開拓中です(Fig. 5)。

▲Fig. 4 岩手県大槌湾の岩礁域(2021年1月)
▲Fig. 5 福岡県糸島市の岩礁藻場(2022年4月)


この研究に取り組むきっかけ

 ダイビングをすると、お花畑に例えられるような色鮮やかな付着生物群集が海底に見られます(Fig. 6)。じっくりと観察していると、生物種によって住んでいる場所が異なることに気がつきます(Fig. 7)。種によって出現する地形条件がどのように違っており、どのように分布パターンが決まっているのだろうか、との疑問からこの研究を始めました。
 生物の分布パターンについては基本的な事柄なので、古くから様々な地形条件についての研究例がありますが、様々な地形量との関係を網羅的に調べた研究例はありませんでした。海中で様々な地形量を同時に計測することが困難であったことによります。そこで辿り着いたのが、海底地形の3Dモデルを構築することで、コンピュータ上で地形量を計測する手法でした。

Fig. 6 色彩豊かな付着生物群集(岩手県大槌湾)
Fig. 7 アオサ類とマボヤのすみわけ

今後の研究

 現在の研究室では、マルチビーム測深や写真測量(フォトグラメトリ)のように様々な方法で浅海域の海底地形測量を進めている研究室です。写真測量だけでは扱えなかった広範囲の海底地形情報も考慮して、付着生物の分布パターンを明らかにすることができると考えています。まずは、特に大型海藻類に着目し、藻場植生の立地条件を調べていきます。
 また、付着生物の中でもカイメン類と石灰紅藻類との関係にも興味を持ち始めています。海底地形関連だけではなく、種間関係に関する生態学的な研究も進めていく予定です。

趣味の活動
 週末は、山や海、湿地などに出かけて生き物の写真撮影をしています。自然観察ツアーのガイドを担当することもあります。絶滅危惧種や珍しい生物の新しい生息地を見つけた場合には、短報として報告したり、標本をとって博物館に寄贈することもあります。また、調査中に採集された付着生物を含む底生生物たちについても、写真や標本を残しています。

▲Fig. 8 岩手県大槌湾で採集されたギンカクラゲ
▲Fig. 10 岩手県より半世紀ぶりの記録を報告したチャオビトビモンエダシャク
▲Fig. 11 岩手県より北限記録を報告中のクモ類、ツシマトリノフンダマシ